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リーノの前向きな意見を耳にしたヨリシーは、がぜん張り切り、翌日は朝早くからリーノと二人で村を出て、町の図書館に調べに行った。
いくつかの書物には、このあたりに古くから祭られている神さまについて書かれたものもあったが、難しく経緯や言い伝えが書き連ねられているわりには、男性か女性かについては、どこにも一言も書いてはなかった。
「あのさあ」と、そろそろ帰る時間になってヨリシーは言った。「確かにはっきりした情報は得られなかったけど、いろいろ勉強したし、その状況から考えて、僕は男性神だと判断したい。少なくとも女性神であるという証拠は一つもない。そのように村には報告したいんだけど、君も賛成してくれるよね?」
「いいえ」とリーノはやわらかに首を振った。「ごめんなさい、私はウソはつけません。はっきりした証拠がなければ、そのように伝えるのが正しいことのように思います」
「しかし、ダメもとでも、はっきりさせなければ、村の来年は悲惨なことになってしまうのだよ」
「そ、そうですが・・・」
「リーノは真面目すぎるよ。まあ、そんなリーノだから、一人で都会に出ていっても、みんな心配していないのだろうけど」
「そんなこと、ありません。・・・私だって、たくさん、間違いを犯しているんです。あまりにも多くの、重いものを背負っているから、せめてこの村に戻ったときぐらい、ウソはつきたくないのです。わがままかもしれませんが、ヨリシー、お願いです、本当のことを報告しましょう」
明日にはもう結果を出さなければならないという夜、村人たちが集会所に集まって再び話し合った。町に調べに行った二人の収穫は、その顔色を見れば一目瞭然だった。
「ごめんなさい、みんな。いろいろ書いてある本は見つけたし、そのことについて語れといわれれば語れるけど、男性か女性かについて書いてある資料は一つもなくて、はっきりしたことはわかりませんでした」
リーノも「ごめんなさい、みなさん」と頭を下げた。
「なに、しかたがないさ」とリーノの幼なじみのカムイは笑った。「神さまが男か女かなんて書いてある本が、そうそうあってたまるかい。本に頼って、それが正しいかどうかもわかんねぇだろ。それよか、オレは見たぜ。あの神さまは、女だ」
村人たちがざわめいた。
「オレは、本なんてわかんねえから、山を調べたんだ。雨上がりの森を歩き回っていたら、泉のところに見なれねえ服が置いてある。半分透明で、よく見なけりゃ気がつかなかったほどだ。でも、それは間違いなく女の服だった。そしてやつは泉から上がると、その服を着て去っていったんだ。どうだ、間違いないだろ!」
「しかし」とヨリシーが食い下がった。「カムイが見た神さまが昨日の神さまだって証拠はないだろ?」
「冗談よせよ。こんなちんけな村に、そうそうたくさん神さまがいてたまるか。あいつは女。だいたい、女の顔だった。間違いない」
「う〜む、おかしいな・・・」
カムイの話を聞いた老人のヒデサダが腕組みをしてうなった。
「どうしたんだ、じっちゃん、もう話は決まっただろ」
「ところが、そういうことならワシも言わせてもらうが、ワシも何かせねばと川の方をぶらぶら歩いておったら、まるで歩いているのか歩いていないのかわからないような、不思議な男がやって来たのじゃ。よく見ると、脚が地面から浮いておる。驚いたが、すぐにわかった。あの、神さまじゃ。なんだかんだ言って、ちゃんとワシらのことは考えてくださっておる。こうやって、男の姿を見せて、間違えないようにと配慮してくださっておるわけだ・・・と、ワシはそう考えた。てっきり、男の姿は、ワシ以外の誰かも見たかと思ったが・・・」
そういえば、そういえば、と村人たちの議論が激しくなった。男の姿、あるいはそれらしきものを目撃した人もいれば、その逆の人もいた。誰の経験が一番信頼できそうか、という議論を重ねたが、結局はどれもにたりよったり、はっきりした結果は出ず、むしろ村人が二分されてしまった。
「おお、わかった!」と女派のカムイはついにタンカを切った。「女だと思うもんはこっちこい。神さまに女と告げるぞ。それでもしも神さまが女だったら、男を選んだやつらが不幸になるのだ。がはは」
「言っとくが」と男派のヨリシー。「そっちだって条件は同じだ。もしも神さまが男だったときは、そっちだけが悲惨なめにあうんだからな。あとで『やっばり男だと思ってたよ』なんて都合のいいことを言ってもダメだぞ。いくら同じ村人だからって、ここのところは、はっきりとさせてもらうからな、悪く思わないでくれよ」
そして、いよいよ大晦日、日が西に傾き、気温が下がってくると、集会所前に火がたかれ、神さまをお迎えする用意が始まった。
とはいえ、神さま直々に現れるなどということは、全く前例のないことだったので、とりあえず『神さまの道』『神さまの場所』『神さまの席』らしきものを用意した。町の店に行って一番高い寿司も買ってきたし、酒も焼酎やらワインやらもいろいろ用意した。もし神さまが生け贄を求めたときのために、と、リーノに薄紫色の衣装を着せて待機させたりもした。リーノとしては「まさか本当に生け贄として求められるなどということはあり得ない」と自分に言い聞かせ、されるがままに従った。
日が暮れると、ぼんやりと白く輝く神さまが、ゆっくりと森から現れた。大きな卵のように光り、その姿や顔は見せないまま、すべるように移動した。そして村人たちの用意を理解したかのように、『神さまの場所』にとどまった。
それでは答えを聞かせてもらおう
私は、男か、それとも女か
どっち?
カムイとヨリシーが手を挙げて叫んだ。
「女だと思うもの、全員こっちだ!」
「男だと思う人は、こっちに集まってください!」
そして神さまの前に、二つの集団ができあがった。これが運命の分かれ道、ここで間違った方につけば、来年は悲惨な一年となってしまう。きれいに二分された村人は、それぞれのグループで身体を寄せ合って、ガクガクと振るえた。
やがて、神さまの光が、ゆっくりと消えていった。そこに現れた姿は、半分男性、半分女性だった。村人たちの意見を、そのまま反映したかのように。
男でも、女でも、両方正しい
私は、みなが、退屈そうなので来てやった
退屈なのは、こまったものだ
私の問題は、楽しんでもらえたか?
そして神さまは、笑みをもらした。
村人たちに、ホッとした安堵が広がると、リーノが静かに『神さまの場所』に歩み寄っていった。特に誰かからそうしろと言われたわけでも、神さまがそれを求めたわけでもなかったが、都会で歌の修行をしてきたリーノは、このとき自然と、愛すべき神さまに歩み寄らずにいられなかったのだ。
薄紫の清楚な衣装を身にまとったリーノが、神さまの脇に立ち、澄んだ声で歌い始めた。
やわらかく日の暮れた村に充ちるように。
あたたかく森深い山々に降るように。
神さまはリーノの声につつまれると、宙に溶けるように、そっと村人たちの前から消えていった。